文通にむけてーわたしたちの原風景を描くために
pen友とはいわゆるペンフレンド/文通友達のことです。時に、ペンフレンドは面識がなくても、文通をとおして信頼を深め、交流をはかります。手紙をかくときは、相手を想像しながらことばを選び、思いや考えを綴る。それは、より話しことばにちかいのではないでしょうか。
pen友プロジェクトは、小金井や東京近郊に住む移民の人びとの出会いを期待してはじめました。手紙をとおして話を聞かせてもらい、彼女たちがこれまでみてきた風景にまつわる記憶をシェアしてもらおうと思いました。
はじめに手紙のテーマとして設定したのは「おばあさんのくらし、衣食住」です。
わたしはこれまで制作した作品に、済州島から大阪へと移住した祖母の記憶をめぐる作品があります。そのような制作を続けるなかで気がついたことは、「おばあさん」という存在をとおすことで、より親密に過去を想像することを可能にし、それは連鎖して他者の想像力をもひらいていく可能性をもっているのではないかということです。
記憶はあらかじめ固定されたものではなく、刻々と移り過ぎる時の流れのなかで生成変化しつつ動的な関係として生み出される。(中略)思い出すことは、自分という存在と世界が深く混じり合っていることの確認作業であり、創造行為の核心へと結びついていく。(伊藤俊治「街は記憶でできているー新たな記憶を創造するアートプロジェクト」、Breaker Project 2011-2013より)
さまざまな背景をもって、日本に移り住んできた人びとの、日々のくらしのなかで、生成変化されながら、彼女たちが記憶をたどり、綴ったことばの声、としての手紙。彼女たちの記憶をもとに書かれた手紙が開いてくれる想像上の風景は、それぞれが過ごしてきた時間や空間を親密に想像するきっかけとなり、わたしたちの原風景を描くきっかけとなるでしょう。
『越境/越えようとすることで見える境の相をめぐって+pen友プロジェクトーわたしたちの原風景を描くために』
制作 特定非営利活動法人アートフル・アクション
発行 2020年3月25日
発行者 公益財団法人東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京